世の中には幾つもの話し方教室があります。
いかに自分の思いを相手に伝え、影響を与えるか。
このために、確かに伝え方は重要です。
しかし、自分の思いは相手に「伝える」というより、
「伝わる」という表現が正しいのではないでしょうか?
一方的に伝えたつもりでも、伝わっていなければ伝えて
いないのも同然です。
・言ったつもりだったのに伝わっていなかった。
・お願いしても受けてもらえない。
・そんなつもりで言ったのではないのに、相手が怒って
しまった。
こういった経験を持つ人は多いことでしょう。
しかも、このような悩みは身近な間柄にこそ多い傾向が
あるので、困ったものです。
このようなコミュニケーションギャップの原因は本当に
伝え方を訓練すれば改善されるのでしょうか?
私は仕事柄、企業の採用面接官トレーニングを行うこと
がありますが、その現場でこのような質問がありました。
「当社には素直な子に入社して欲しいのですが、なかなか
素直な子がいなくて。どうすれば素直さは見抜けますか?」
いかがでしょう?
あなたなら、どうお答えになりますか?
採用面接で、「あなたは素直ですか?」と問われて、
「いえ、私は天邪鬼(あまのじゃく)です。」
と答える「素直」な求職者はいないでしょう。笑
そこで、問題なのですが、「いえ、私は天邪鬼です。」
と自己をさらけ出す人は素直なのでしょうか?
それとも本当に天邪鬼なのでしょうか?
ここで聴く技術が問われます。
まず、聴くための大前提としてあなたが欲しい「素直さ」
が明確になっている必要があります。
上司から、取引先に賄賂を贈るように言われ、「はい。」
と従うのも素直さです。
一方で、「部長、それはおかしいことではないでしょうか?」
と、たとえ相手が上司であっても間違いを正そうとする事も
素直さと言えるでしょう。
あなたの会社では、どちらの素直さを大切にしますか?
ここに聴く技術の一つがあります。
それは、自分の価値観を知っておくという事。
自分の価値観を知らないままでは、いくら相手の話を
聴けてもその相手に対する評価や判断ができません。
次に、相手の価値観を知る必要があります。
もちろん、「あなたは素直ですか?」と尋ねても相手の
価値観は出てきません。
そういう時、私はこのような質問をします。
「あなたの考えるビジネスにおける素直さに関して、
考えを聞かせてください。」
それを聴いたらさらに質問します。
「では、そのような素直さを発揮できた
具体的なエピソードを聞かせてください。」
もし、いかに美しい言葉で「素直さ」を表現できても、
その体験がなければ、2つ目の質問には答えられません。
いかがでしょう?
この答えを通じて、自社の考える素直さの考え方や
具体的な行動との共通点や相違点から採用するかどう
かの判断のヒントが見えそうではないですか?
このように、聴く技術を使って社員を採用していけば、
社員の細かい考え方は違えど、核となる価値観が合う
人が集まってきます。
そうすると、結果的に思いを伝えることが容易になっ
てくるのです。
これは、採用の現場だけでなく、家庭や日常生活でも
同じです。
自分の前提となる価値観を知り、相手の価値観を聴く。
そのギャップを知ることで、伝え方が見えてくるのです。
もちろん表面的な情報を聞き取る技術もあります。
しかし、実生活では情報だけ聞けても意味がないことが
多いものです。
それが、言ったつもりだったのに伝わっていなかったと
言う結果を招くのです。
以前、ある石油会社の環境保全のためのCMで、このような
フレーズがありました。
「生きるために森を焼く人たち(焼畑農業従事者)に、
森を守ろう、という言葉は届かない。」
それはすなわち、焼畑農業をしなくても生活ができるような
方法(定置型有機農業技術)を提供するということでした。
この方法の妥当性はともかく、「正しい」事を伝えても相手
は動きません。
相手が主体的に動くポイントとは何かを知る事が、相手に影
響を与える鍵となるのです。
相手を知るための聴くという技術が、どれだけ相手に影響
を与える高いポテンシャルを持っているかご理解いただけた
でしょうか。