コラム

ビジョンを伝える覚悟

コラム 2016/03/03


様々な立場や価値観の人が集まる「会社」と
いう環境で経営方針を示すのは
なかなか勇気がいるものです。

会社の経営方針やビジョンを明確にし、
これを発表すると、いろんな事が起きます。

その際たるものが反応の二極化では
ないでしょうか。

様々な企業のビジョンや、その従業員様の
個人的なビジョンを明確にする事に
取り組んで来た経験で
いろんな事が分かりました。

それは、示されるビジョンが
明確であればあるほど、それを発表するのは
勇気がいるという事、そして、
それを聞いた側は大きなインパクトを
受けるという事です。

企業が明確にビジョンを示す場合には、
時に退職者が出るという事も分かりました。

実際に30人の新卒の入社者に将来の
ビジョンをしっかり作ってもらうと、
「私が本当にやりたいのは、この会社の
仕事ではない。」「そんな私は、この会社に
居るべきではない。」と気付いて、
配属先の決定までに2〜3人が退職していきます。

また、ある会社では、社長が本気で作った
具体的かつ明確なビジョンを示す事で、
No.2の取締役が辞任しました。

しかし、私はこれは退職ではなく
「卒業」であると言った方が
適切なのではないかと思っています。

Pile of vintage suitcases next to a window on hardwood floor.

多くの学生は、親や学校の期待に応えたい、
あるいは、周りの友達に「負けたくない」と、
上場企業や有名企業に入ろうとします。

これは、まさしく就職ではなく就社です。

そして、内定が決まって、
ほっと一息ついたところで、
「・・・で、この会社で何がしたいの?」と
問われると、具体的なビジョンが
出てこない訳です。

それはそうでしょう。

何故なら「有名企業に入る」事そのものは、
何かを成し遂げるための手段ではなく、
目的そのものであった訳なのですから。

入った後のビジョンなどあるはずがありません。

ちょっと賢い新入社員は、その気付きを経た後も、
誰かに聞いた話の「受け売りビジョン」を
持って働きます。

仮面をかぶって誰かの
人生を演じながら、長い長い社会人生活を
「ソツなく」過ごすのです。

また一方で、中途入社時や創業時には
同じ思いであっても、企業や経営者、
従業員の成長に伴って、将来ビジョンの
方向性にズレが生じてくるという場合もあります。

その状態で、最も成長欲求が高く、
勉強家の経営トップが満を持して
「こっちに行くぞ!」と本気で方向性を示すと、
「今の労働環境に燃えるような情熱はないけれど、
転職や独立も面倒だし、楽だから今までここに
居たのだが・・・。」という人は、
社長のキラキラした眼を見るにつけ、何となく
いたたまれなくなって巣立っていくようです。

経営者にとっては、会社の成長や時代の流れに
着いていけなかったとは言え、古株の
「大御所」に辞められるのは精神的には
ショックも大きいと思います。

しかし、実際にその「大御所」は、
会社の企業理念やビジョンに惚れ込み、
意気揚々と入って来た新入社員や、
新しい事にチャレンジしようとして
目を輝かせていた中途入社者の成長の芽を
摘んでいたのかもしれません。

また、自分と会社に嘘をついて、
仕事やお客様への貢献に大した情熱もなく、
怒られない程度に「うまくやっていく」事を
目標に頑張る新入社員や、「卒業予備軍」に
時間とお金を投資する事を考えれば、
早期にご卒業いただいた方が
得策であるとも言えます。

(本来、採用段階、あるいは定期的な
面談などで、この部分を見抜くべきですが、
今回は、割愛します。)

その代わり、「卒業式」を迎えた後に
会社の残った社員の思いは一本、
筋の通ったものになっていきます。

この集団は、極論すれば、
お金が目的で働いていません。

この体制ができると、
採用や人材育成にもプラスに働きます。

ピンポイントで欲しい人材像に対して
尖ったメッセージと適切なメディアで
アプローチ出来るし、
入ってきた人が馴染みやすい環境が
すでに整っているわけです。

さらに、会社のビジョンと、社員のビジョンが
重なるため、社員の成長=会社の成長となり、
自分が頑張ることと、給与アップとが
濃厚な関係性をまとってくるのです。

そうなると、会社の成長エンジンが
止まらなくなります。

Gas Engine Closeup Background Photo. Car Engine.

経営理念とは経営者の価値観です。

ビジョンとは、その価値観に沿った将来像です。

中には、経営理念が世の中の誰もが賛同するような
「倫理」や「道徳」になっている事を見かけます。

○○の販売を通じて全ての人々を笑顔にします。

・・・のような。

ビジネスで人を笑顔に出来なければ、
そもそもビジネスではありません。

もっと、経営者の価値観を尖って
出していなければ、理念などないに等しいのです。

上場企業のように広く株主を募るような
企業でもない限り、価値観・・・すなわち
「好き嫌い」を明示しておいた方が、
結果は全てにおいてハッピーな結果を生むはずです。

ビジョンを伝えるには、
その尖る腹をくくるという事が大事です。

もちろん、社員に辞められるのが
目的ではありません。

ただ、道無き道を切り拓き、
道を創っていく役割は、
社内には経営者しかいないという事実があります。

日頃から従業員が何を考え、
何に喜びを感じるか・・・すなわち、
従業員の価値観を普段から知る努力をしながらも、
一方で、常に社員の数歩先を歩んでいく
必要があるのが、我々経営者なのではないでしょうか。

ビジョンのない経営者はどんな感じ・・・?

迷子の経営者 (1)



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