コラム

即戦力採用の罠

コラム,新着情報 2019/03/15


採用に即戦力を求める
企業は多いものです。

その気持ちは分かります。

特に中小企業においては、
入ってきた新入社員に
ゆっくり指導している経済的、
時間的、人的余裕がない場合が
ほとんどでしょう。

そこで目が行くのが即戦力採用です。

お客様のご期待にミスなく、
タイムラグなくお応えするには、
即戦力採用はとても重要な戦略です。

しかし、この即戦力採用には、いくつかの
注意しなければならない点があります。

それを次のような3つの視点で考えて
みたいと思います。

1)新入社員への企業文化の「教育」
2)受け入れる既存社員の役割の明確化
3)中途社員本人の成長促進

まず注意しなければならないのは、
企業文化やその会社「ならでは」の
やり方に慣れるまでに感じる戸惑いからくる
パフォーマンス発揮不全の可能性です。

この心理的ギャップが埋まらないと、
新入社員がパフォーマンスを
発揮できないだけでなく、早期退職や
場合によってはチームが崩壊し、
最悪、既存社員の退職が発生し、
採用しないほうがましだった、
といった結果になりかねません。

そういった望まぬ結果を未然に防ぐために、
採用プロセスにおいて会社の文化や
考え方を伝え、会社の価値観を
共有しておかなければなりません。

具体的には企業理念や行動指針、
クレドなどの会社に存在する考え方や
尊重される行動規範の共有になります。

これが曖昧なものであると、
お互いが自分勝手な思い込みをしてしまい、
期待値のズレが発生する訳です。

新卒なら「社会人ってこんなものかな?」
と思ってくれるかもしれませんが、
中途は過去の職業経験を参照しながら、
入った会社を評価します。

ですから、中途入社社員を雇う時には、いや、
即戦力としての中途入社社員を雇う時ほど、
スキル以外の「相性」の確認が必要です。

そして、会社の大事にしている価値観を
明確に言語化し、積極的に言葉で伝え、
「教育」していかなければなりません。

次に、受け入れ側への働きかけです。

受け入れる側の既存社員にも教育は必要です。

その採用は会社としてどういう意図を持って
行っており、将来、あるいは、いつまでに
その新しい社員にどんな活躍や役割を
果たして欲しいのか、
現在持っているであろう能力と
これから期待される伸び代、
サポートしてあげなければならない事などを、
受け入れる側に具体的に伝えておかなければ
なりません。

また、その人の入社後に
既存社員が求められる新しい役割を
個々に説明しておかなければなりません。

たとえ、社会人経験があっても、
入ったばかりの人は誰しも
職場に慣れることができるか
不安を抱えています。

そのような中で、周りの仲間が
自分の想定していないような反応をすると、
一気に主体的な行動を取るのが
怖くなってしまいます。

また、これまで出会った採用担当者の
歓迎ムードと、受け入れる側の
受け入れの態度に温度差があっても、
戸惑いや疎外感を感じてしまいます。

このようなことのないように、
受け入れ側にもしっかり「その採用の意義」を
伝えておく必要があります。

最後に、中途社員の成長欲求の問題です。

即戦力採用という事で、会社側は当の新入社員を
「既に出来上がった社員」と認識します。

特に、高いスキルを持つ優秀な人ほど、
配属された部署の上司は重宝がり、
期待する事でしょう。

きっと、期待にも応え、
成果を出してくれるはずです。

しかし、大きな罠がここにあります。

その罠とは、入った本人は、
社内の高い評価とは裏腹に
まだまだ成長したいと思っている
という事です。

社内ではスター選手であっても、
自分の市場価値が停滞しているような感覚に陥り、
不安に駆られてなんとかしたいと思っても、
自分よりスキルの高い人が不在であるため、
社内にいても成長が見込めないという
絶望を感じ始めます。

社外で学べる研修制度でもあればいいですが、
そういう制度がある会社は少ない上、
スター選手が業務時間中に外部に学びに行く事が
許されない雰囲気が蔓延している事も
多いでしょう。

そして、「このままじゃまずい。」と、
転職を考え始るのです。

実際、新入社員研修を行う企業は多いものの、
マネージャー以外の中途社員への研修を
制度化している会社は少ないものです。

しかし、これだけ情報や情報伝達ツールが溢れ、
技術革新のサイクルが早くなった現代において、
「今、何かを知っている」「今、何かが得意」
といった強みはとても刹那的です。

もてはやされた資格や技能が
どんどん陳腐化していく時代、
即戦力であり続けるためには、
常にアップグレードが必要です。

世の中の流れを感じ取り、
自らのOS(基本的な考え方)と
アプリケーション(個別スキル)を
主体的に進化させている優秀な人は、
この事実に気付いています。

採用広告を出しても採用に繋がらない会社の特徴」にも
書きましたが、会社に創造性と成長をもたらす
給与以外の働く動機となる心理的報酬の
フレームワーク<SEARCH理論>でいう

E;Excitement;(ワクワク・創造・変化・チャレンジ)
A;Achievement(達成・成長・探究心・専門技術)

に、働く価値観の重きを置いている人たちは、
既にそんなキャリア形成をしているのです。

いわんや、海外の優秀層にとっては当たり前の
ことです。

即戦力採用をするのであれば、
中途社員の成長支援制度を
設けておく事がとても重要です。

逆を言うと、即戦力採用でも
入社後の成長支援制度があることを
採用時に伝えることで、
成長欲求豊かな人の入社動機に響くことになります。

このように、即戦力採用は一見企業側に「便利」な
ようですが、組織を揺るがすような危険や、
結果的に高いコストを支払わなければならない
という罠が隠れています。

しっかりと対策を打っておかないと、
入社させても組織力が向上しないという結果が
待っています。

「でも、社員を育てても結局
辞められちゃうんだよ・・。」

そんな、せっかくお金をかけたのに
社員に逃げられた社長のぼやきを耳にします。

特に、システムエンジニアなどの技術職
採用に多いようです。

この、「育てなければならないが、育てたら
辞められる」という矛盾「社員教育のジレンマ」
についてどう対応していくか、
次回はお話ししたいと思います。



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